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体験をデザインする

何か良さそうなスライドほど、読めない。

雰囲気はいいのに、何が書いてあるのか分からない。発表を聞く前にスライドを読むだけで終わる、あの虚無な時間をなくすために考えたこと。

2026-07-24 · 約8分

会議室の照明が少し暗くなる。発表が始まる。最初のスライドが映る。なんとなくおしゃれで、何か良いことを言っていそうだ。でも、薄い文字を追っているうちに次のスライドへ進み、結局何が書いてあって、何を伝えたかったのかを考えているだけで発表が終わる。私は、あの虚無な時間をなくしたいと思いました。

目に優しくないスライドは、内容まで遠ざける

見づらいスライドの問題は、単に文字が読みにくいことではありません。聞き手の注意が、発表者の話ではなく、文字を解読する作業へ奪われます。背景と文字の差が小さい。文字が細い。情報の優先順位が見えない。ひとつひとつは小さな問題でも、積み重なると聞き手は内容を理解する前に疲れてしまいます。

発表者は、良い内容を用意しているのかもしれません。けれど、伝達の入口でつまずけば、その内容へ辿り着けません。『何か良さそう』という雰囲気だけが残り、伝えたかったことは届かない。それは発表者にも聞き手にも、もったいない状態です。

基準はある。でも、確認が日常に入っていない

文字と背景のコントラストには、すでに基準やガイドラインがあります。問題は、基準が存在しないことではありません。資料を作る人が、発表直前に簡単に確かめられる手段が、日常の作業へ十分に入り込んでいないことです。

厳密な判定ツールはあります。色の値を入力し、コントラスト比を確認する方法もあります。ただ、実際のスライドを目の前にして『この部分は見えるだろうか』と思った瞬間に、色を拾い、値を入力し、別の画面で確認するのは少し遠い。正しい方法でも、使われなければ改善にはつながりません。

スマホを向けるだけ、という距離まで近づけたい

そこで、カメラで直感的に確かめられないかと考えました。スライド、掲示物、モニター、印刷物。気になる場所へスマートフォンを向け、その場で簡易的に確認できれば、判断までの距離は大きく縮まります。

気になる配色を見つける
カメラを向ける
文字と背景を選ぶ
簡易判定を見る
必要なら正確な確認へ進む

カメラを使う判定は、画面の明るさ、照明、反射、カメラの補正などの影響を受けます。だから、厳密な保証をする道具としては向きません。けれど、その理由だけで利便性を捨てるのは惜しい。正確性に限界があるなら、簡易ツールだと明示し、より正確な判定へ進める導線を用意すればいいと考えました。

セキュリティのために、便利さを諦めない

もう一つの問題は、確認したい資料を外部へ送ってよいのかという不安です。社内向けのスライド、公開前のデザイン、個人情報を含む資料。見やすさを確かめるだけのために、それらをサーバーへアップロードするのはためらいます。

ならば、画像を外へ送らず、端末の中で処理すればいい。カメラや画像から色を取り出し、コントラストを計算し、改善候補を探すところまでブラウザ内で完結させる。セキュリティが利便性を諦める理由になるなら、その制約を設計で解決することにしました。

デザインを壊さず、読める状態へ近づける

見やすくするというと、文字を真っ黒にし、背景を真っ白にすればよいと思われがちです。それなら確かに読みやすくなります。しかし、元の配色や雰囲気をすべて捨てるなら、作り手にとって受け入れにくい提案になります。

必要なのは、正解の色を押しつけることではなく、意図を残したまま、どこまで変えれば読めるのかを示すことです。文字色を少し濃くする。背景色を少し明るくする。複数の候補を見比べる。そうすれば、アクセシビリティはデザインの否定ではなく、調整可能な設計条件になります。

作りたかったのは、判定結果ではない

みえるデザインは、コントラスト比を表示するためだけの道具ではありません。作りたかったのは、発表前にスマートフォンを向けて『これなら読めそうだ』と確かめられる体験です。

正確性に限界があるなら、その限界を示す。厳密な確認が必要なら、その方法へ案内する。画像を外へ送りたくないなら、端末の中で処理する。元のデザインを守りたいなら、最小限の変更候補を示す。機能はすべて、確認を面倒な専門作業にしないためにあります。

何か良さそうな雰囲気はあるのに、何が書いてあるのか分からない。そんなスライドが少しでも減り、聞き手が内容そのものへ集中できる時間が増えてほしい。それが、みえるデザインで解決したかったことです。